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おもな掲載記事 ARTCILE

女性自身 (光文社) 2007年1月16・23合併号
注)法整備の状況などについては掲載当時のものです


向井亜紀「代理母」が告白 私が彼らの子を産んだ理由

高田延彦・向井亜紀夫妻が3度目のトライとなる代理出産によって、双子の男児を授かったのは20031128日。あれから3年経った今、米国人の代理母・シンディさんは何を思うのか? 彼女の肉声を聞くために、昨年末(2006年末)、ネバダ州の自宅を訪れた。




 
取材後記など

取材を通して、ジェイムスもユーモアを交えながら話していた。明るく、陽気な夫婦だった。



一方で、これまでの取材や報道については表情を曇らせ、「意図したところとかけ離れている」と憤慨し、心を痛めていた。大野和基氏(ページ1(1))については「突然訪問してきた。アキの友人だというから、家にあげた」と話していた。
個人宅に上がる際、取材の趣旨を伝えることは大切だし、最低限書く側に求められている誠実さである。まして、嘘によって相手を信用させて、家に上がり込む取材姿勢はその倫理観が問われるのではないか。シンディは真摯に暮らしている、市井の人なのである。

大野氏についてはまったく存じ上げないのに、『あなたの子宮を貸してください』を出版した直後、私のウエブサイトから突然メールが来たことがある。短文メールは極めて無礼な書きぶりであり、ここを見てくださいと情報源らしきリンクが貼られていた。そのリンク先はなんと、2ちゃんねるのURLだった。代理出産および向井亜紀にかんするスレである。この行為にはさすがに閉口した(無論、メールは保管している)。その3年後、大野氏は代理出産をテーマとする新書を出版し、もっともらしい生命倫理を語っていた。それはけっこうだが、よほど、こちら側の何かが大野氏に火をつけたようである。

ジャーナリストにしろ、研究者にしろ、代理出産の問題を指摘するなら、いくらでも自分で取材して書けばいい。しかし、あるアメリカ人代理母自身が語った言葉まで「ないこと」にしようとするような動きは遺憾である。非常に、冷静さに欠けた反応ではないか。

本記事については、ほかにも、「代理出産を問い直す会」を主催する研究者・柳原良江氏が、私の名前を挙げて、『死生学研究』第13号にて取り上げていた。なんら事実確認も調査もしないまま、「依頼者の視点に立つ編集者とフリーライターの意見を、懐胎者の意見として再構成したものと推測される」などと書いている。つまり、このように語った事実は存在せず、やらせだと述べているのである。また、依頼者の視点に立っているからと、決めつけられていることも興味深い。「推測」という逃げ口上を使いながら、偏見に満ちた言いがかりを論文に書かれ、言葉を失うばかりである。

断り書きをするのもばかばかしいが、実際に2006年のクリスマス時にアメリカ・リノまで飛び、シンディと会って話したのも、写真を撮影したのも私である。当時の取材テープも保管している。実際にはシンディはもっと長く話し、ひたすら肯定的に向井亜紀との交友関係、代理出産への想いを語っていた。

長年来の代理出産反対の一部研究者による言動は、気に入らない文章を書いた「フリーライター」に対する偏見、事実無根の中傷であるばかりでない。実際に命がけで、向井亜紀の子を妊娠し、出産したシンディに対する最大限の侮辱である。本人の考えと意志を否定、――つまり、彼女自身の存在を一方的に否定しているのである。こうした研究者というのは、いったい、どれほどの高みに自らを立たせているのだろう。

誤解のないように付記すると、私はいかなるケースでも代理出産、卵子提供に賛成しているわけではない。しかし、どのような場合であれ、本人の肉声をそのまま伝えることは大切である。(性と生殖をめぐる代理母の権利と主体性が守られたケースであれ、社会的構造などによる代理母の搾取としかいいようのないケースであれ)。美談だ、ねつ造だなどと推測で赤の他人が決めつけることだけでは、現実との乖離を生むだけである。

こうした研究者やジャーナリストは、自らの主張に真向から反する考えを持つ代理母、複数にわたって代理出産を経験した代理母、産むことは素晴らしいと使命感を持つ代理母については、無視、あるいはそのような「超越した理性の持ち主」は存在しないと否定するのだろうか(先の論文における柳原氏)。それこそ、公権力による女性のリプロダクティブ・ライツのはく奪を彷彿とさせる、行き過ぎた言説である。



***
「女性自身」の記事に戻ると、当然ながら、シンディの考えだけが代理母全員を代弁しているわけではない。しかし、日本の有名人の代理母を引き受けたがゆえに、シンディたち自身が誤解されるようなことがあってはならないし、真意がねじ曲げられてはならない。研究者などが自分の主張を意のままに展開したいがために、一個人の体験や考えまでを上から否定し、なきものにしてはいけない。


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