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ノンフィクション作家
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おもな掲載記事 ARTCILE

月刊プレイボーイ(集英社)2006年9月号
PBインタビュー 作家  中村うさぎ


中村うさぎ
身体を通して感じたことを書くのでないと、
自分自身に対して説得力がないんです。


 

― 私みたいな未婚の30代だと、「子どもだけは欲しい」という女性が少なくない。うさぎさんはこのように考えたことはありますか?

中村 それは私にはなかったんですよ。好きな男ができても、「この男とセックスしたい」とは思うんだけど、その先の「この男の子どもを産みたい」と思ったことがない。痛いし、苦しいし、体の線が崩れるじゃないですか。ものすごい外面的なことで申し訳ないんだけど、私にとっては大事なことで、太るのと同じぐらい嫌。そのくせ、美容整形による痛みや苦しさに関しては果敢なんです。自分主義だとは思うけど。
だけど、まわりの子どものいる人たちを見ると、「女にとって子どもを生むってことは、自己実現のひとつだな」と思う。恋にしろセックスにしろ、女の人が求める動機って、「自分のことを必要としてほしい」という切なる気持ちじゃないですか。だから、貢いじゃったり、DVにも耐えちゃったり、いろんな不思議現象が起きるんだけど。でも、男が求めてくる期間なんて、本当に知れてるわけですよ。
子どもってさ、もう生まれたときから絶対的に自分を必要としてくれるわけ。そして、十何年かそれが持つ。この世で100パーセント自分を必要としてくれる生き物がここにいる、そういう手応えは女の人にとっては大きいと思うんです。

― 自己実現は、世代を問わず、女性にとても強い願望ですよね。人によっては、「自分探し」、「やりたいこと探し」が強迫観念になってしまうくらい。

中村 男の人にも自分探しはあると思う。ただ、女の人は人生の選択肢が多い。妻という形、未婚という形、母という形……。いろいろな選択がある点では男の人よりは恵まれてるけど、何かを選んだら何かを捨てることになり、捨てた選択肢に対して未練が残る人が多い。「私はあのとき結婚してたら、今の人生は違ったのに」と。女の人のほうが、選択肢が細かく枝分かれしている分、未練や喪失感が心に溜まっていくんだと思うんです。
男の人も「あのとき、あの女と結婚してれば」と思うかもしれない。けれど、それはそんなに深刻な問題じゃなくて、相手が変わったらという話でさ。でも、女の人にとって、結婚はものすごく重大なこと、人生が変わっちゃうからね。結婚したら、専業主婦になるか、共働きするかっていう選択もある。男の人は結婚したら、とりあえず今の社会では自動的に働き続けるわけですよ。

― 専業主婦vs働く女性、子ありvs子なしというように、女の人はすぐお互いに「どちらが幸せか」を競い合ってしまう。だけど、男の人はそういう競い方はしないですよね。

中村 女の人は生き方が違うと、敵同士になっちゃう。専業主婦はキャリアウーマンから、「私は年収何千万稼いでんのよ」って言われたら、コンプレックスを持ってしまう。キャリアウーマンは専業主婦から「子どもっていいわよ」と言われると、ふんっ! と思いながら、心のどこかがズキンとする。
そこには、自分が選ばなかった選択肢を選び、自分の持ってないものを持ってる女に対する嫉妬と、自分が獲得したものを肯定したい気持ちがあるんですよ。そういうふうに、生き方が両極端に違う女同士が戦う構図はたしかにある。私はまず、それを何とかしたい。女同士でバッシングし合っていても何も進まないから。
こういう対立が男の人にはないっていうのは、さっき言ったように、男の人はそこまで生き方が変わらないからね。男の人にとってのライバル意識ってのは、地位と金。あいつは年収何千万、俺はこれぐらい、あいつは上場企業、俺は零細とか、男同士のライバル意識は社会的地位によって生じると思うんです。

― 離婚は、うさぎさんの中でどういう位置付けになっていますか?

中村 離婚は良くも悪くも、私の中の夢見る少女を殺しましたよ。子どもの頃、『白雪姫』や『シンデレラ』を読んだり、ディズニーのアニメを見たりして、「いつか運命の人が私を迎えに来てくれる」って、深く心に刻み付けられてしまったわけ。上昇志向も野心も強い女なのに、心のどこかで「男に守られたい。そうじゃないと女は幸せになれない」と思ってた。その幻想を粉々に打ち砕いてくれたのが、私の最初の王子さま。

― 幻想が打ち砕かれて、よかったと思いますか?

中村 長い目で見れば、前の夫によって幻想が打ち砕かれた結果が今の私。自立心というか、肝が据わったっつうのはある。だけど、その一方で、女であることの欲望とか快感、特権、幸福を一部犠牲にしたと思いますね。やっぱり、離婚で失っちゃったところはありますよ。
っていうのも、失いっぱなしで疑問を感じなければ、私はずっとそのまま「男なんか何さ」みたいに生きていけたのに……、生きていけると思ってたのに、42、3のときに突然恋愛をしてしまうわけじゃないですか。もう思いもよりませでした。しかもホスト。もう本当に美しい顔以外は何一つないような男に、本気で惚れちゃう。そして、自分が女であることを思い出してしまう。
……てことは、前の結婚で1回死んでしまったはずの「夢見る少女」は、死んでたんじゃなくて、眠ってたんですよね。自分の中の眠り姫が、突然、「こんなんじゃ、あんたは幸せじゃない。女は愛されてなんぼでしょ」と言い出したんです。そうなると、いったん自分が男のいる人生を捨てたくせに、急に「あ、私は何か大きなものを犠牲にした」と思ってしまったわけ。
そこからホストとの恋愛が終っても、なんか喉の渇きがおさまらない人みたいに、男、男、男っ! みたいになっちゃって。

― その渇きは今も継続しているのですか?

中村 今? 今はもうねえ、金で解決するか! って(笑)。……でも、やっぱり金では解決できないね。
若いときは何だかんだ言ったって、モテるってわけでなくても、求めてくれる男はいる。だけど、年を取るとだんだん男と疎遠になっていくわけ。ましてや、こんなキャラだから怖がられるし。

― どれだけ地位、名誉、お金を手にしても、「男の人から愛されている」という部分がないと、女というのはグラグラしちゃうんでしょうか?

中村 どうなのかなあ。男の人の場合、年取ったら若いときより、ビジュアルによるモテ度は落ちるかもしれないけど、地位、金、権力を持つことによって男性的な魅力を補てんできるじゃない? でも、地位、金、権力なんか、女性としての魅力の補填にはならないわけ。
お金や権力を持ってる男の人を好きな女の人っているじゃない? 計算ずくな女と言われるかもしれないけど、違うのよ。本気で好きなのよ。権力も金の力も、彼女たちにとっては「男らしさ」という力の象徴のひとつなのよね。彼女たちの中で、お金持ちの男は「仕事のできる男」として解釈されている。そうすると、年齢がある程度上でも、キャリアを積んでる分、若僧よりは「仕事ができる男」なわけですよ。当たり前じゃないですか。
でも、男の人が女の人を恋愛対象として見るときに、「仕事ができる」はあんまり大きい問題じゃないと思うんだよね。女性的魅力っていうのは、力じゃないんですよ。権力でもなければ地位でもない。

「これで離れていく読者がいてもしょうがないと思った」

― では、うさぎさんが考える女性の魅力って何でしょう?

中村 私が考える女性の魅力じゃなくて、男性のマジョリティが考える女性の魅力は、「愛しい」。つまり、自分よりちょっと下です。「かわいい、守ってあげたい、抱きしめてあげたい」と思うような弱さやいじらしさ。
私の感覚では、きれいな服着て華やかな女の人をすごく魅力的だと思うわけ、叶姉妹とか。そりゃあ、金と手間隙かけてるけど、いくつになってもゴージャスじゃないですか。だけど、ああいう華やかさ、力強さを男は女に求めてないと思う。

― うさぎさんは小柄だし華奢だし、「喋らなければ、弱々しく見える」と言われません?(笑)

中村 「喋らなければ、」って言われるんだけど、目つきもきついし、服装も派手だし、声は低いし、オカマ感が満ち溢れてる(笑)。

― でも、学生の頃はそうじゃなかったのでは?

中村 そうですね、私、丸顔だったんで。しかも小柄で目が大きいと、大体ロリータキャラに見られる。すると、内面とのギャップにクレームがつくんです。ロリ系が好きな男の人が「きっと内面も守ってあげたい少女に違いない」と思ったら、私なんかとんでもないわけですよ。下品だし、ずけずけ物言うし、意地悪だし、押しは強いしさ。すると裏切られたような気持ちになるのか、あるいは最初に持ったイメージをあくまで崩したくないのか、「大丈夫だよ。俺の前では肩の力を抜けよ」などと言ってくる。「抜いてらあっ!」みたいな(笑)。「勝手に押しつけるな、おまえのイメージを」ってずっと思ってた。

― ショッピングの女王としてブレイクしたわけですが、「ブランド物を買いまくる話をしたら、逆に嫌われるんじゃないか」と、読者の目は妨げにはなりませんか?

中村 いや、それは思いましたよ。『文春』の連載を始めた頃は、めちゃくちゃ遠慮してました。最初は「毎週買物をして、それについて書く」という依頼をもらったんだけど、そのうちネタ切れになっちゃったんで、ブランド物の話を書こうと思って。そのとき、もう『文春』クビになるかもと思った。だって、税金を滞納してまでブランド物を買うなんて、オジサンの読者から見たら「真面目に生きろ!」となるじゃない。
そしたら案の定、もう投書の嵐です。朝日新聞の投書欄のような文面で、「御誌の見識を疑う」みたいなさ。相当、嫌がられました。でも、編集部はあまり気にしていなかったみたい。で、そのまま。
まあ、しかし、整形のときも、デリヘルのときも、読者が離れることは覚悟してからやりますね。買物をおもしろがってくれた読者が、ホストクラブ遊びをおもしろがるとは限らない。整形にしてもそう。ましてやデリヘルなんて、「何もそこまでやることなかろう」と言われるだろうと。
やっぱり、性的労働に従事するのは、後ろ指さされ具合が違うと思ったんですよ。だから、バッシングは免れない、これで離れていく読者がいてもしょうがないと思った。そりゃ、読者は離れていってほしくないですよ。だけど、そんなこと言ってたら、私は一歩も前へ進めない。やりたいことを基本的にはやる、っていうのが私の芸風なので。

― 一連の依存症はご両親に対する反発もあるのかな、と思ったんですが、『私という病』を読んでみるとそういう感じは受けないですね。

中村 親子の間に反発があったり確執があったりするのは当たり前のことなので、何もなかったとは口が裂けても言いませんが、普通程度のものだったと思う。
ただね、私、父親とは仲が悪かった。というのは、すごく性格が似てるんですよ。DNA的に似ちゃったのか、あるいは父親を憎みながらも彼を自分の中に内面化してしまった後天的な問題なのか、それはどっちだか自分ではわからないんですけど。もう本当に、テレビのチャンネルひとつで竜虎の争い。些細なことで、権力争いというか、お姫さまと王さまの戦いみたいでした。

― お父さんはキリスト教なんですか?

中村 うん、クリスチャンですね。父親は躾けて、母親は受け入れる。そういう役割分担が、昔ははっきりしてたでしょ。うちの両親もまったくその通りで、叱るときに父親が出てくる。私にとって父親は裁く神、母親は許す神だったんです。
それで、両親共にクリスチャンで同一の価値観で育てられれば、裁く神も許す神も同一基準を持っているわけです。ところが、父親だけがクリスチャンで、母親は本当に日本人的な感覚の人。母親にとって神はいないの。むしろ、裁いたりするのは世間。日本人ってそうじゃない? 「世間に対して申し訳ない、顔向けができない」とか。
母親のモラルの基準は世間、父親のモラルの基準は神。神は絶対的ですが、世間は相対的なわけじゃない。あることが許されたり、許されなかったりする。それで、世間に目を向けるか、神に目を向けるかで、価値観が矛盾するんですよ。「正しいこと言って何が悪いんだ」って父親と、「正しいことを言えばいいってわけじゃないのよ」って母親を持っている。だから、ダブルスタンダードというか、異なる物差しが二本あったようなかんじ。そういうことも、私のアンビバレントな部分だったと思う。でも、結局、自分が選んだのは父親の物差しだったんです。

― これまでの活動に対するご両親の反応はどうですか?

中村 デリヘルはさすがにね、母親に泣かれましたよ。父親は一切何も言わなかったけどね。うちの父はね、私に「おまえが自立したら、おまえの人生に口は出さん!」と言ってしまったので、その発言に二言がないというか、撤回しないように努力してる。父はそういう人だから。
母は私がブランド物で税金滞納の話を書いたときにまずへこみ、その次に、顔の整形はともかくも、胸にシリコン入れたからって女性誌でおっぱいを出したことでまたへこみ、それで、デリヘル体験で3度目にへこみましたね。

― お母さんがへこむことで、うさぎさん自身に打撃はないんですか?

中村 へこみますよ。さすがに目の前で悲しまれると、私も苦しい気持ちになる。母が悲しむ度に、「こういう風なことを書きたかったの」と私は一生懸命説明しているんです。でも、やっぱり母にはわからないんだと思う。そりゃ、こんな娘を理解しろったって無理なのはしょうがないけどさ。「この人は本当に私のことがわかってないんだな」と思うと、ちょっと悲しいよ。
デリヘルのときは夫も悲しみましたね。彼の場合、世間体じゃなくて、心の底から、「何されるかわかんないじゃん」って心配してた。
私がやりたいことをやったら、そこに何か意味を見つけてくれる人がいる。でも、一番身近で大切な人たちは、私がしていることですごく傷ついてしまうわけです。そのことに関しては、やっぱり私も自分に対して「どうなの?」って。私のエゴイズムは、賞賛されることじゃない。身近な人を傷つけておいて開き直っちゃったらおしまいだから、罪悪感や申し訳なさは、私の心のどこかに抱えておかなきゃいけないことだと思うんです。


(インタビュー・執筆 平井美帆)

 

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